倶楽部へ早出の日、帰宅ラッシュの流れに逆らって改札口を潜ろうとしたら泣き顔を隠そうともしない若いOLさんとすれ違いました。
 会社でよほど悔しい目に遭ったのか、それともたった今、彼氏と別れたのか、、それにしても久々に見る生々しい泣き顔でした。
 路上のありとあらゆる場所で見ることが出来る女が男に見せる演技の涙、あれとはまったく違うものを感じ、何故か心が揺さぶられました。
 激しい雨に打たれるアジサイの姿が脳裏に浮かびます。

 下の短編は、数年前の梅雨の時季に(SMfに)掲載した作品です。ブログ用に軽くリライトして見ました。お楽しみ下さい。

                            rain02.jpg  大雨

 この時代、一番儲かるのが天気予報士と雨具屋だった。
 何しろ恒常的に、濃度の差こそあれ、肉や場合によっては骨まで溶かす雨が降る世界だ。
 人々の命運は彼らが全て握っていると言ってよかった。
 「殺しの雨」が、止んだ後のその場所の光景を描写するには、数十枚の原稿用紙が必要だろう。
 実のところ、現場には強烈な酸性を帯びた悪性ガスが立ちこめていて、肉眼でその実体を捉えられた者は死者以外にはいないのだが。
 人々は、原子力発電を持ちながら断線した送電システムを復旧する為に、天候が晴れる事を祈るしかなかったし、電子機器で地球の裏と表を瞬時に結べるのに、隣町に移動する為に、腐食しない「自分の足」で歩くしかなかったのだ。
 この時になって人々は、改めて「家の外」に出なければ「社会」は成立しない事に気付いた。しかし外には「殺しの雨」が執拗に降り続いていた。

 ケイコは午後三時に、昔、彼らが出会った頃よく利用した海浜公園跡の一角を、逢い引きの場所として指定してきた。
 純一は微かな不安を覚えた。その場所に行くまでには少なくとも自宅から五時間はかかるのだ。
確率的にはその五時間はかなり「安全」だと言えた。国が「天気予報」しているし、専門家である純一の判断からしても「殺し」にあう確立はゼロに等しかった。
 しかし、帰路に要する五時間は、純一達のような個人の気象予測士達が辛うじて「予報」と呼べる確率を維持している「準予報帯」に入っていた。
 「準予報帯」は一種の賭の時間であり、まっとうな生活を送っている人間には、あてにすべき未来ではなかった。
 この時間帯に濃度百パーセントの「殺し」が降ったとしても、あるいは逆に、脳天気な晴天が広がっていても、それは神様の思し召しなのだ。
 ただ、辛うじて「予測」できる気象に掛けて大金を掴もうとする人種は山ほどいたし、嫌でも外に出かけなければならない人々もいる。
何度も言うが「経済社会」は家の外にあるのだから。
 純一は、この後半の五時間に「殺し」は降らないと彼自身のシステムで予測していた。純一の「予報」の精度は結構高く、多数の大手企業が彼の「予報」を買っている。
 だからこそ、純一は、こんな時代に「自宅」を新築できたのだ。「予報」は個人的な好意でケイコにも流していた。
 そのケイコが待ち合わせの時間を午後三時にと、早朝の五時に電話をかけてきたのは、なにやら純一に対する悪意が見える様で腹立たしかった。
 今の生活を大事にするならケイコとの関係を早い目に整理する必要があった。
 しかし純一にはそれが出来なかった。妻が持ち合わせない肉欲を埋める術をケイコが知り尽くしているという事もあったが、今朝の電話のように相手を試すというのか、相手をいたぶりながらも自分に絡め取ってしまう一種、悪魔じみたケイコの魅力に純一は取り込まれていたのだ。

 純一が、ケイコとの関係を想って煩悶している間に、妻の淳子が彼の部屋の前に立っていた。 気象予報士の仕事ぶりは、一般の人間には理解しがたい部分があるらしく、妻の淳子は結婚して二年にもなろうかというのに、未だに純一が具体的に何をしているか理解できていないようだった。「お早う御座います。朝食はいつもので宜しいですか?」
妻の淳子の視線が、モニターやキーボード類が乗った巨大なデスクの一隅に走ったような気がした。
そこには受話器が置いてある。ドアは開け放してあるので、耳の良い淳子ならケイコからの呼び出し音を二階の寝室からでも聞いている可能性がある。
「ああ、、。朝食を取ったら出かけるよ。精度を要求される仕事があってね。実地調査も必要なんだ。」
「急ぐんでしたら、お食事の間に、お出かけの服を用意しておきましょうか?」
「いやいい。実施調査といったろう?専門のものを着ていくよ。あれは淳子の手に余るだろう?」「でも天気予報じゃ、ここ五時間は雨が降らないと、、。」
 淳子は穏やかに言う。この二年間、淳子が声を荒立てた場面を見たことがない。 人は純一の結婚を政略結婚だとか噂をする。
確かに純一が、以前勤めていた民間気象予報会社から独立できたのは淳子の実家の財力や権力を利用できたお陰だ。
だが計算だけではない、純一は淳子のこの「穏やかさ」が好きだった。そしてケイコとは正反対の包むようなセックスも。
「行って帰って十時間はかかる勘定なんだ。」
「まぁ。」淳子は小さく息を呑んだ。

rain.jpg  純一は自宅の機密式ドアの横に設えてある着衣室で防護服を装着しはじめた。「殺しの雨」に備えて機密式ドアと着衣室はどの家庭にもある。
ただし純一の設備は個人の持ち物としては群を抜いていた。
中でも防護服のレベルは、「殺しの雨」の中でも活動せねばならない軍の特殊部隊の装備と比べてもひけを取らないはずだ。
 「予報」のレベルを、他の個人気象予報士の結果から引き離し、精度を上げる為にはフィールドワークが欠かせなかった為だ。
「空模様」は異変前と変わらず、未来の天候を何よりも雄弁に語ってくれていた。 そして純一の防護服にはその他の秘密があった。
それはケイコが、純一との愛の逢瀬のたびに付加してきた変態セックスの為の機能だった。
 ケイコは病的なまでのラバーフェチだった。
勿論、純一がそれに気付くというか、知らされたのは二人の関係が抜き差しならない所まで来てからの事だった。
 仕事は出来るが容姿では劣る純一に、アイスドールと呼ばれた社長令嬢であるケイコの方から、彼にモーションをかけた理由がそれで納得できる。

 


 純一が、仕事の為に着ていた防護服にケイコは惚れたのだ。
 勿論、当時純一が勤めていた気象予報会社は民間の中では最大手であり従業員は多数いた。
 ただ、外でのフィールドワークは誰もが敬遠し、純一だけが、そこに己の出世の「可能性」を見いだして「外」に頻繁に出かけていたのだ。
 ケイコは、結果的に業界の人間達が「重ゴム」と呼ぶ防護服を着込んだ純一を多く目撃する事になる。
 今では、純一はケイコのラバーフェチが彼女のファーザーコンプレックスと複雑に絡み合っている事を理解していた。
ケイコの父親は、純一が勤めていた気象予報会社を一代で創設した男であり、そのやり方も、純一と同じように、電子データとフィールドワークに同じ比重をおいた「予報」で成功した男なのだ。 

 しかしケイコの母親は、「殺しの雨」に出てゆく夫の姿と、夫の帰宅までに常に感じる生死の不安に耐えきれずケイコが六歳の時に姿を消していた。
 ケイコの屈折した愛情表現を見ていると、ケイコに内にあるのは単純なフェチズムではなく、幼少期の強烈な体験が彼女の性癖を誘導している事に間違いはなかった。
 一度ならず、純一は、彼の着込んだ「重ゴム」製の胸元の襟を、乳首のように吸いながら眠り込むケイコを見ている。怜悧の中に野生を秘めた美貌を持つケイコが、その眉根を苦悶に歪めながらゴムの端切れを吸い続ける姿はどこか凄惨なものがあった。
 純一は防護服の周りに漂うゴムの甘い匂いの中にケイコの体臭を一瞬かいだような気がして、うろたえた。
 淳子も時々はこの更衣室を使う。
 いいや気のせいさ。どうせ会えばケイコはあの異様なゴムまみれのセックスをせがんで来るに違いない。それに興奮して俺の嗅覚が過敏になっているだけのことだ、、、。


 黒い腫れ物の世界。純一は「家」の外、いや世界の風景をそう心の中で呼んでいた。 多くの家屋は耐腐食剤を練り込んだリキッドラテックスを何重にも外壁に塗装してある。
 均一の厚みを持った塗装ではない。素人の仕事だ。でこぼこで、その質感故にグロテスクでさえある。 個人が「殺しの雨」の合間を縫って塗装したものだ。
今のように、専用の塗装業者が現れるまではこの作業は大変なものだった。 「殺しの雨」に怯えながら、まず中和剤を家屋全体に塗布する、それからリキッドラテックスだ。
 この一連の作業が一回で完成する事はまずない。必ず途中で「殺し」が降る。作業中であってもだ。
 低濃度の「殺し」なら良いが、高濃度の「殺し」に降られたら、文字通り死人が出る。 それでも人々はこの作業を止められない。この作業を放棄することは「家」を失うことなのだ。今や「世界」の中に家があるのではない。「家」の中に世界があるのだ。
 何人かの人間とすれ違う。午前中は「大丈夫」と国が予報を出している。純一の長年鍛えた観察力で、赤錆た鉄板のような空を見ても「殺し」は降らないと言い切れる。
だのに、あらゆる人間が軽重の差はあれ、防護服を着込んでいる。
 土砂降りの雨の中で、死者のダンスを踊り狂いながら皮膚を剥がれ肉を溶かされ、やがて骨さえも腐らせてしまう死に様が、誰の意識の中にも強く刷り込まれているのだ。
 それでも人々は外に出ざるを得ない。
ある者は、地下農園に、ある者は発電所に、まだ安全なシールド加工された地下連絡通路で結ばれていない最低限の生活の基盤を支える施設に向かって。
又、ある者は、この「外出」というリスクをマネーチャンスに変えるために。

mistress006.jpg  海浜公園跡が見えてきた。自宅から徒歩で三時間を少し上回る程度で到着した、始め考えていたより随分と早い、「歩き」としては良い出来だった。
 純一は、歩きながらケイコとの関係の清算の方法を考え続けていた。
女としてはケイコは変態だが魅力的な存在だ。
 だが一緒に所帯を持てる女ではない。答えは決まっているのだが、今まで結論を出せずにいたのは、決してケイコの肉体的な魅力に未練があるだけではなかったからである。
 純一が、ケイコという社長令嬢に見初められるという奇跡を起こしたからこそ、今の妻である淳子との結婚があったのだ。
 社長が開くプライベートパーティーに純一が呼ばれる頃には、純一とケイコの結婚は半ば公然のものとして成立していた。
勿論、誰もがその結婚が長続きしないこと、純一は、とどのつまりは会社から放逐されるであろう事を予測してでの話だが。 

しかし人々の予想は、このプライベートパーティに招かれたある資産家の一人娘の登場によって大きく塗り替えられてしまった。彼女の名前を淳子という。
 淳子はケイコと同じ年であり、彼女たち二人は友達とは言えないまでも、何度か顔を合わせた間柄だったそうだ。
 淳子はこのパーティ会場で出会った純一に一目惚れしたらしい。 らしいというのは純一にその実感がまったくないからだ。
後に淳子にそう言われたからそうなのだと思っているだけの話だ。そしてそれぐらい淳子は印象の薄い女でもあった。
 結局、紆余曲折を経て純一は淳子と結婚した。
 暫くして「何故、自分と結婚した?」と聞いたら、「さあ、あの時、私がおぼこかったからかしら。それとも、単純にあの人のものならなんでも横取りしたかったからかしら。でも後悔はしてません。」と謎めいた微笑み付きで淳子は笑ったことがある。
 人々は、純一と淳子の結婚を、自然な成り行きと評価しているのだが、冷静に考えてみれば、純一を略奪したのは、気性の激しいケイコではなく、おっとりした淳子のほうなのである。
 「打算で乗り換えてしまった。」純一にはその罪の意識が未だにある。
 それに、純一はどういう訳か、妻の淳子に不透明さを感じる時があるのだ。ケイコは屈折していて、扱いづらいし、性格的にはお世辞にも可愛い女とは言えない。
だが、心が読める、読めるような気にさせる女なのだ。
 それに対して淳子は、おっとりとした素直な女だ。それだけのように思うが、二年も一緒に生活していると、思いがけない面がちらりと顔を覗かせる。
彼女が仮面を被っているとは言わない。ただ底が見えないのだ。
 ケイコとの関係は淳子との結婚の後も続いている。単純に肉体的な関係だ。
 それも常軌を逸した変態行為がそのほとんどだ。帰宅した後も、純一の身体に肉体的な変調が残っている事は沢山あった。
それらは勘の良い女なら、少し観察を丁寧にするだけで判るようなものだった。中にはケイコがわざとそれを狙ったものさえあった筈だ。
それでも淳子は、純一の不倫を気付かない。気付かない振りをしているのだろうか?
 底が見えなかった。だが、いずれにしてもケイコと切れるのなら、今が最後のチャンスだろう。純一は、この雰囲気は「殺しの雨」が降り出す直前の空模様によく似ていると感じていた。
  海浜公園跡の、天井の抜けたコンクリートの建物の中にケイコは異様な防護服を着て立っていた。


tintin02.jpg「重ゴム」と呼ばれる重装備の防護服は、様々なコーティングを施された肉厚の硬質ゴムを素材にしているため、柔軟性が少ない。
しかもその上、中に包む人体を完全に密封する必要があるために、外観は人型をしたシェル状になる場合が多いのだ。
 頭部は勿論、全てを包むヘルメット型だが、顔面については視界を確保するためガラスのバイザー部分を大きく取ってあるものが多い。
 結果的に、「重ゴム」を着込んだ人間は、性別不明の大人びた黒いキューピー人形のような見てくれになる。
 だがケイコの「重ゴム」は、金の力にものをいわせた特別のオーダーメイドなのだろう。その人型のシルエットは極端な「女性」のデホルメを持っていた。
  それに頭部にはヘルメット代わりに薄くてぴったりとした半透明の全頭型のゴムマスクを付けている。
ケイコにしてみれば自分の美貌を無骨なヘルメットで隠すことなど許されない事なのだろう。
ただ緊急の場合に備えて、目元を大きくガラス面で取ったガスマスクだけはその顔に張り付けざるを得なかったようだ。
 ケイコは左手を女王様然としたポーズで腰にあて右手の人差し指で純一を招いた。
 その腰には両性具有を象徴しているかのように黒いラバーのディルドーが隆々とそびえ立っている。
 純一は、突然変異を起こした「陸に上がった棘付きの若布」の様な雑草が生い茂る地面の上に立つ女悪魔の彫像と、表面張力の限界を超えそうな黒雲がたれ込める空を交互に眺めた。
 そして諦めた。別れ話は、あの際どいセックスが終わってからにしよう。
それが終わらない内はケイコはなにも受け付けまい。
今のケイコは、自分の父親の裸体を包み込んでいた「重ゴム」と同一化しており、全てを支配しつくさない限り一人の女性には戻れないのだから。
一度は、降り始めた「殺し」の中で防護服を着たまま繋がった事さえあるのだ。
 純一はケイコの前に両腕を軽く広げて立った。ケイコのガスマスクから覗く顔はいつものように精悍な猫科の肉食獣を連想させる。その美貌は飴色の半透明のラバーマスクに覆われていようが決して色褪せる事はない。
 だが今日のケイコの顔は少しだけ浮腫んでいるように見えた。 自分の股前でひざまずくケイコを見ながら「寝不足みたいだな。」と純一はボンヤリ考えていた。
ケイコの儀式が終わる暫くの間、純一はマネキンの人形のようであらねばならない。
 ひざまずいたケイコは純一の「重ゴム」の前面を縦に走るジッパーを開き始める。普通ならそれで下のアンダースーツが出る。
しかし純一の「重ゴム」には仕掛けがあって、それで中間層にあたるラバースーツが出現する仕掛けになっている。
これは幾たびかの逢瀬の中でケイコが純一に貸し与えた装置だった。
 シェルから出現したスーツにはラバー製の蛇腹チューブに男根が付いたものが何本も生えていた。
ケイコはそれら一本一本を愛しそうに頬ずりすると、自分のシェルの表面に開いた女陰を象ったラバーの造形の亀裂に押し込んでゆく。きっとケイコは自覚のないまま、自分の父親に犯されている妄想にはまりこんでいるに違いない。
 純一の身体にあるほとんど全ての男根付き触手が、ケイコのシェルに接続されたあと、ケイコは純一の本物のペニスの隆起が透けて見える部分を撫でさすった。
そして次に自分の股間にあるディルドーを掴むと一気にそれを引き抜く。ディルドーの長さはケイコのシェルの中に格納してあったのか、どんどん伸びて、ケイコの思うとおりの動作が可能だった。
さっきまで屈んでいたケイコが伸び上がって純一の顔の前に自分の顔を突き出すようにした。そして引き抜いたディルドーで純一の顔を覆うガラスのバイザー部分をコツンコツンと叩く。
瞳の輝きが尋常ではない。
 ケイコは純一のヘルメット口元にある吸気バルブを開け、自分の手に持ったディルドーを押し込み始める。
両者ともがこの遊びの為に設計されたものだ。
ディルドーは吸気バルブにぴったりと納まり、更にそれは純一の口の中に入った。
 勿論、ヘルメットの中の空間には若干の余裕がある。
純一がそう望めば、口に入ったケイコのディルドーは吐き出すことが出来る。 だが純一はそれをしない。
このディルドーチューブの反対側の先端はケイコの女陰に繋がっており、ここから空気を送り込んでやるとケイコがそれを喜ぶのを知っていたからだ。

008gfdssssr.jpg  

 だが、今日は反対だった。ディルドーを口に含んだ途端、甘ったるいガスの様なものが流れ込んでいた。
一瞬目の前のラバーに覆われたケイコの顔が歪んだ。 ケイコが待ちかねたように自分のガスマスクの吸気口バルブごとチューブを分離し、その唇を外気にさらした。
と同時に、純一のヘルメットからディルドーを引き抜き、自分の口をそこに寄せた。 ケイコはガスマスクの残された厚みで、純一はヘルメットの厚みで、お互いの唇を重ねる事が出来ない。
二人は精一杯舌を伸ばす。
伸ばされた舌の先端が絡み合う。
「何をした?」
「催淫剤よ。何時までも果てないわ。」
自分たちの会話を、純一は何処か遠くの男と女の会話のように聞いていた。
「早く二人のシェルを繋ごう。」
 二人の「重ゴム」を完全に開いてそれをつなぎ合わせると、二人分が入れるゴム製の繭のような空間が確保できる。
「今日は繋がなくてやりましょうよ。シェルはマット代わりになるわよ。」
「メットもなしで、アンダーだけでやるんだ。途中で降られたらどうするつもりなんだ。」
「この前は平気だったわ。」
「あの時は申し訳程度の屋根があった。ここは青天井だ。」
「あなたの予報じゃ降るの?」
「降らない。」
「信用するわ。」
「、、、、。お前には信用して欲しくないな。」
「なら余計に燃えるわ。」
ケイコはたまりかねたように、顔を仰け反らすとガスマスクをはぎ取った。
 ラバーマスクの上をケイコの分厚いロボットのようなゴム手袋の指が、引っかかりながら滑っていく。
 ケイコの舌が独立した生き物のように、ラバーマスクの口の開口部から押し出された彼女のぽってりとした唇を嘗め回している。
 純一はケイコを押し倒しながら、彼女のシェルを解除した。
シェルの内側は先ほど差し込まれた純一のディルドーの先端がいくつも見え、それらが消化器官の柔突起のようにケイコのラバースーツに覆われた身体を嬲っていた。
 純一は、出来るだけ自分のシェルの抜け殻を二人の身体の上になるように持ってきた上で、ケイコの身体の上に覆い被さった。
 ケイコが待ちきれず、純一のヘルメットのバイザー部分を舐めあげる。
 ケイコは唇や頬を強くバイザーに押しつけてくるので彼女の美貌が歪んで見えた。
 純一は自分の頭の奥底で小さな爆発が何度も起こるのを感じている。先ほどのガスのせいだ。一体、この女は何を吸わせたんだ。
 純一はそう考えながら、ヘルメットを外し、それを後ろ手で遠くへ放り投げた。久しぶりに自分が恐ろしく興奮しているのが判った。
 これから、妻とは決して味わえぬ、奇妙で倒錯したラバーセックスが始まるのだ。
  何度も訪れる快楽の中に、焼け付く痛みが混じっている事に純一は気付いた。
首筋の一カ所が燃えるように痛い。
それと共に意識が覚醒した。
「殺し」が降り始めている!首筋に落ちたのは最初の一滴だ!自分の下にいるケイコを見た。
ケイコは、半透明のラバーマスクの下で薄笑いを浮かべている。
「しっかりしろケイコ。シェルを着直すんだ。このままじゃ死んじまう。」
「シェルは、元には戻らない。そうしておいたの。」
「何を馬鹿な事をいってるんだ。」
 純一はとりあえず自分のシェルを身体に付けたが、シェルは人型に復元しようとしない。
「あなたのも細工をしておいたわ。」
「俺のは家から直接着てきたんだ。お前に細工ができる訳がない。」
「私がケイコならね。」
 ケイコはいとおしむ様にラバーマスクをなで上げた後、それを首もとから剥いだ。
 ラバーマスクの下からケイコの女豹のような顔が出現する。
頬に水滴がポツリポツリと降りかかる。
そこから薄い煙が上がった。純一は息を呑む。
しかしケイコは悲鳴すら上げない。
「まだ判らないの?お馬鹿さんね。きっとみんなケイコのこの顔のせいなのね。中身は私の方が凄いのに。」
ケイコは、今度は自分の顔面を剥ぎ取った。
その下から現れたのは淳子の顔だった。
 純一は跳ね起きようとした。しかし純一の身体は薬の影響かスローモーションのような動作でしか動かない。
しかも彼の下半身はラバーで覆われた淳子の両脚でがっちり巻き込むように固定されていた。「私たちが結婚してから最高のセックスだったわ。ケイコはこんなのをいつも楽しんでたのね。」 大粒の雨が次々と落ちてくる。
淳子の顔の表面が次々と焼けこげる。
 今度は人の肉が焦げる匂いがする。
しかし悲鳴は上がらない。
 まるで未だに、ケイコの仮面が淳子の痛みをカバーしているかのようだ。
 だがそんな筈はないのだ。
純一の喉からは獣のような狂った咆哮が発せられている。

その日、一日中「殺しの雨」は降り続いた。



d3836_004.jpgRubber Klinik 2


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 タイトルが「ニューハーフサラリーマン」。
蝦頭娘2.0では、その日アップしたエントリー内容と関連のあるエロバーナーを貼り付けるのをルールにしてるんですが、今日のは例外。
 ってこれ弟のJのお気に入りみたいで、絶対、入れろって言うもんだからご紹介しました。たぶん今は宮仕えの弟、ひそかに主人公のめぐみちゃんに憧れてるみたいです(笑)。